「デザインから街づくりを」ヘルベチカデザイン株式会社佐藤さん

こちらは1月18日に渋谷で行われる「郡山ナイト〜郡山の企業との関わり方を考えよう〜」の記事となります。イベント特設ページはこちら

ヘルベチカデザイン株式会社は郡山にあるデザイン会社。
代表の佐藤哲也さんは一般社団法人ブルーバードを2018年6月に立ち上げ郡山の街づくりをデザインからアプローチしようとされています。その取り組みについて佐藤さんにお話を聞きました。

佐藤哲也さん

―― ブルーバードはどういう経緯で始まったんですか?

僕らは「デザインから街づくりを」っていうアプローチをしているんですね。ここ数年僕が全国色んな地域の街づくりにデザイン分野で色々と関わっていたんですね。

全国各地で色んな企業さんとか自治体さんにお声がけ頂いて、僕たちが出来る範囲でいろいろとお話をしてきたんです。各地で活躍されているデザイナーさんやモノづくりをしている方達、そして農家さんともお会いして、地域の仕事や活動ってこうだよね。って話すことを様々な場所でしてきました、でも、よく考えてみたら、地元でもある郡山で何もできてないなぁとハッとして、まずは自分が住む街で何か貢献したいなぁと思い始めました。

これまで繋がってきた仲間や職人さんたちの地元郡山に対する思いを集結させて一つのメッセージを送りたいと。

―― ブルーバードはどういったプロジェクトなんですか?

佐藤哲也さん

まず、はじめにプロジェクトを走らせる為の体制づくりを行いました。主導するのは、一般社団法人ブルーバードになります。清水台近辺でご商売されている方達が中心となり、理事になっています。不動産屋、建築士、酒問屋、美容室、和食料理人、イタリアンシェフなど本当に街の方達が主役の社団です。

この社団の面白いところだと、①部会は作らない。②会費は取らない。③会議はしない。とうのが基本的な方針なんです。みなさん自分のお店や事業をされているので、活動が足を引っ張っては元も子もありません。様々な事業家でもある理事が集まるのは重要な場面のみになります。活動がみなさんの事業の弊害になってしまうようですと、義務感に囚われお互いに疲弊してしまいますし、共存できなくなってしまいます。長く続けられるよう、出来ることから活動をしていきます。

ブルーバードが掲げるプロジェクトは3つあります。

事業の一つは、「Blue Bird apartment」のリノベーション事業です。これは、築44年の4階建の古ビルを全面リノベーションをし、建物としての機能を回復させ様々な方達の活動拠点を作る事業です。活動拠点となる「Blue Bird apartment.」は1Fがブックカフェ、2Fに地元のデザイン事務所、3Fにクリエーターに貸し出すスモールオフィス(5部屋)、4FはアウトドアブランドSnowPeakとコラボしたレンタルスペースとなっています。このビルから人が繋がり新しい仕事や仕組みが生まれると考えています。

2つ目に、「マルシェ運営」です。
郡山市清水台にあるBlue Bird apartment.の前の通りを自治体の力をお借りし通行止にして様々な方達の力(個人も企業も関係なく)を集結し、福島だけではない様々な視点から見たマルシェを開催したいと思っています。ここでも人と人が繋がる場づくりとして考えています。

3つ目に、「空き家(ビル)の情報化」です。
「街×人×仕事」を繋ぐといっても「場」がないと集ません。郡山駅前からここ清水台までの800mにいくつか可能性のある導線をイメージしていて、実際にこれから活動を行おうという方達の活動も支援していきながら、自分達が生活するパーソナルエリアを広げてもらいたいなぁと。駅から始まるアプローチではなく、街の少し外側から始まる導線というか、駅に向かうまでのアプローチというか。企業化されている不動産屋さんには落ちないような不動産情報を仕事とカルチャーを合わせて何はメディア化していきたいと考えています。

―― 遠い所から点と点を線で結ぶ。その線を作っていくってことですよね。

佐藤哲也さん

そうです。線を作って、その線を太くしていく作業をこれから。

―― 最初の拠点がここになるってことですよね。

はい。ここに可能性を感じましたし、地権者さんとも地元への思いが共有できたのが大きかったです。4FでSnowPeakさんとタイアップしているのですが、様々な自治体さんと町づくりの議論をすることがあって、そういった時にお声がけしてもらえれば、SnowPeakのギアを抱えながら県内を回ろうかなぁとなって。

お金をかけるようなリノベーションをしなくても、元々あるところをちょっと片付ければテントは張れるし、珈琲だって淹れられます。気軽な魅力を作り、そこに人が集まればお酒で乾杯なんていうのも好きかと。空き家キャンプみたいな感じです(笑)

―― 地域を出るという事ですよね、この地域から。

出ます出ます。

―― あんまり地域にこだわりとかってない感じですか?

佐藤哲也さん

全然ないです。無いという方が逆に健全というか。自分の住む街を俯瞰で見られないと本当の性能というか性格も分からないし。変な力の入れ方や、強引な肩入れはしないと決めています。街の構造や人口、規模が似ていても性格が全然違かったりするんですよ。そこに住む方達のマインドも全く違ってくる。そういう環境に対して、町づくり(遊び方)をカスタマイズするのが楽しいんです。頭も悩ませるし、予算もなかったりするけれど、成功したら楽しいじゃないですか。

ともあれ、田舎の町づくり共通の突破口は何かなって思ったら、やっぱりここみたいな「集まる場所」だなって、コーヒーがあれば新聞を読むのも贅沢になるし、本があれば退屈な30分が学びにもなる。アウトドアのギアがあれば、あちこち移動できるし、珈琲と本を携えれば、色々な人たちと会えるんじゃないかなと思って。だからエリアは全然関係ないです。世界は繋がってますよ。

―― 郡山のアンカーでもありつつ、郡山じゃない所に行くアンカーでもあるという事なんですね。

佐藤哲也さん

そうここが母艦です。宇宙戦艦ヤマト(笑)ガンダムだとホワイトベースですね(笑)。
たまに、移住や定住などのセミナーでお話をすることもあるのですが、基本的にまだハードルが高いなぁと思っています。仕組みや受け入れ体制とかではなく、日本人って仕組みが無いとイメージが難しい。やっとWワークという言葉が増えてきて、実際にそれをうまく回せているのもごく僅かな人たちですし。とか言って、もっと手前の2拠点でいいじゃん、となるじゃないですか。でも、それはもっと難しい訳です。2拠点をやれるのはフリーランスなので、仕事のムラが出来てしまうのは死活問題です。結局、ボトルネックになるのはお金なんですよね、「人・モノ・カネ」っていう部分になっていて。

結論から言うと「文脈づくり」なんですよ全部。なぜ、そうなったのか?という。
2拠点が新しい働き方だ!とかではなく、活動していった結果、2拠点に落ち着いたという文脈になるような働き方を作る必要があると思っています。そこの順序がチグハグだから、人とモノとお金が繋がってこないので。そこをどうするのっていう所は多分自治体も出来ないし、今は〝自分で見つけなさい〟(綺麗な言葉で言うと働き方改革)ということになってしまっているのが課題というか問題点。

今の自分の隠れているとういか可能性の側面にある仕事を作る、といったアプローチをブルーバードアパートメントで行って行きたいと考えています。仕事は人の繋がりからしか生まれないので、人から生まれる仕事を作るためのスモールスタートをコツコツやって行きます。

僕らのようなデザイナーとかが、活動の拠点があるとそれができる。
単純な人集めのイベントになってしまうと意味が無くて、日常の生活の流れというかリズムにならなければいけないから、無理をして仕掛けないというのがルールを儲け、そこのマインドを作るのがもの凄く大事なんですよね。

ブルーバードアパートメントの1階では、駅前が失った街の本屋さんの機能を持ったカフェができ、2階はうちのデザイン事務所になります。3階は、5人のクリエーターさんにスモールオフィスとして賃貸し、4階では時間貸しをするフリーな空間になります。使う人それぞれがクリエイティビティを発揮し、使い方をアレンジすれば自分だけの価値がそこに生まれるようになりますし。そういった考えてアレンジするみたいなのが癖付けできると、街も一緒に変わりますよね。ブルーバードアパートメントという活動拠点がそういったチャレンジの場所になれば嬉しいなと思います。

―― 先ほどおっしゃっていた「佐藤さんが今まで付き合ってきた人たちとリソース」を使ったんですね。

佐藤哲也さん

ブルーバードプロジェクトの皆さん

そうですね。僕はただそれを結んでるだけですね。
その中でも、とりわけ意味深いのは、郡山出身で某有名百貨店で社長を務めたり、某有名ブランドの役員をされている方に1階カフェの音楽をディレクションしてもらったり(笑)。みんな地元のために何かやりたいと仰って頂いて、社団の理事に入って頂いています。みんな地元のことが気がかりなんですよね。そこから関係がすごい繋がってきて。足し算じゃなく掛け算になってきてて、それがすごく面白い。

―― 関わっている人たちが凄い多いし。

そう、変態が多いんですよ(笑)。面白いですよ、みんな。

―― 凄いことになりそうですね。

僕らは心の窓をフルオープンにしていて、そうすることで、活動に関わりたいという方や、地元への思いを持った方が凄い人たちばかりで。郡山って場所としてはなかなか難しいところですが、人のポテンシャルはかなり高いと思いますよ。
なので、掛け算でいうと、関わる方達は「乗数」として、僕らは「被乗数」みたいな関係性を作りたいです。仕事かもしれないし趣味かもしれないけど、本気で打ち込むことで思ってもみなかったことが起きるから、あとは大人も子どもも関係なく、想像力を持って自由にやって欲しい。(笑)

この郡山で活動することへの遠慮は必要はないよって思っていて。色々言われても、やるかやらないかですから。別にやらなくてもそれも良し。

―― ここ自体がインフラになりそうな感じですね。

佐藤哲也さん

あ、そういうイメージですね。インフラを作るのにもコンテンツがないと人が集まらないから、そこに面白さというか、本気でバカなことをやるっていうスパイスを加えて他と違いを出しながら、飲食店だけど飲食店じゃないようなやり方をしたりとか。でもやる人たちは全部プロっていうのが面白いなって。

―― インフラを提示したら好きなことをやったら?って感じですよね。これだけコンテンツがあるんだしっていう…

そうそう、この活動を何とも思わない人は、そもそも何をやっているかわからないと思います。そういうのは別に批判はしません。楽しそうにやっていれば、興味を持ってもらえるので、まずは僕たちが楽しむことかなと。

―― 具体的に新しい人とつながったとき、どういう事をしてもらいたいという事はあります?

佐藤哲也さん

何かしてもらいたいっていうより、僕らが何かやっていることで「自分もなんかやれるんじゃないか?」という雰囲気をつくってほしいのですね。今は少し背中を押す側に立ってしまっているので…僕たちからはあんまりないんですよね、正直。僕たちも多くの方達から様々な学びが欲しいと思っています。

一つ、皆さんの力を頂いたという例としては、リノベーションをやるよ!とSNSで発信したら、行政の方や学生さん、外国人の方達からメッセージを頂いてボランティアに参加してもらいましたね。壁塗装の下地作りを手伝って頂きました。そこには正直、驚きましたし、逆に満足しています。皆さん黙々と手伝ってくれて、お昼には一緒にオニギリを頬張ったりと。新しい絆が生まれました(笑)なので、何かやってほしいという事も僕からは特にないです。ただ、何か頼むというところにコミュニケーションの種があるのも事実なので、遠慮せず、甘えてみようかと思っています。

―― これ全部が市場って感じがします。

佐藤哲也さん

そうなんです。言葉とか図にするとすごく安っぽくなるけど、郡山にも住むべき本当の価値とか本質を作りたいです。薄っすらとイメージにはあるけれど、町づくりって何?みたいな、そこはみんな気づいていないですよね。価値を意図的に作ろうと思うとそれは無理なんですよね。情報を整理するというったクリエイティブやデザインの力もほんの少し必要だと思います。
 
仕事で言えば、東京は「スペシャリスト」の文化というか、一つを究極に尖らせて勝負する。一方、田舎は何でもしなきゃだめだから、雑用もしなきゃいけない。試合をするグランドの草むしりからスタートです(笑)なので、総合的なイメージをどれだけ高められるかってなると、こういう場所や仲間が絶対必要。単純にブルーバードで名刺交換した人が繋がり、凄い仕事になるかもしれないし。そういう人のエネルギーというか可能性はもっと広がると思うから。ある意味、新しい市場にもなるかと思います。

―― 東京は貰った仕事をやるっていう感じ、こっちは作らなきゃいけないっていうのは本当にそう感じています。

佐藤哲也さん

黙っていても地方の仕事でスペック上がりますよ。ただ、副作用として大きな賞を獲ったり、グラフィックや技術で勝負するような市場では正直ないので、そこは多少諦めてやらなきゃならないです。今は、地方が注目されているので、福島らしさをいずれ確立できれば、他の地域とも良さを競え会える可能性もあります。

今回、たまたま僕らもグッドデザイン賞2つ頂いているのですが、それも別に大したことをやってるわけじゃなくて、しっかりと伝えるという方法を丁寧に行って来た結果でしかありません。それも話題にはなるし、クライアントさんの仕事が認められれば僕たちも嬉しいし。地方の難しい課題に全局面で向き合えるのは、地方の仕事の醍醐味です。しんどいけど、それも丸ごと楽しめるのでやりがいはありますね。

―― 最後にブルーバードプロジェクトの今後についてお願いします。

一言でいうと、町の集会所を作っているような事業なので、早くそういう安心できてみんなが立ち寄れる場所になりたいなぁと(笑)
オシャレな場所って若者だけのものじゃないし、年配の方でもオシャレな空間が日常の一部になるような楽しみ方があっても良いと思います。自分たちの満足を実現したい訳でもないので、そこは地域の方達と一緒に取り組んで生活に楽しみを作って行きたいと思っています。

僕たちの掲げる町づくりとは、自治体の都市計画では出来ない部分、住む人の「心持ち」を作る活動です。このエリアに新しい時間が流れたり、コミュニティが芽吹いたり、そういった新しい風が吹けば、生活にも小さな楽しみを与えられる。春に向けて、おじいちゃんおばあちゃんが立ち寄れるようなみんなのサードプレイスを目指して行きます。

2019年1月18日に渋谷で開催される、郡山ナイト〜郡山の企業との関わり方を考えよう〜にて郡山との関わりを地元企業を介して関わる方法を考えるイベントを開催します。
ヘルベチカデザイン株式会社の佐藤さんも参加されるので、ご興味のある方はお気軽に参加ください。
イベント特設ページはこちら