旧市街地から見下ろした尾道市

フリーランスと会社員夫婦の地方移住!現地での仕事について聞いてみた

広島県尾道市に移住予定のフリーランスクリエイターと会社員の30代夫婦。尾道市での暮らしを選んだ理由と、移住後のキャリアプランを伺いました。

神奈川県三浦市で暮らす佐藤さんご夫婦は、この春、広島県尾道市へ移住し、新しい人生をスタートさせます。会社員とフリーランスのCGデザイナー夫婦が30代後半で決断した、縁もゆかりもない土地への移住。積み上げてきたスキルやキャリアをどう生かすのか?移住後のキャリアプランについてお2人に伺いました。

夫の佐藤れいさん(左)と妻のあゆみさん(右)新婚旅行先のスイスのグレンツ氷河にて撮影

佐藤れい 30代
インフラエンジニア。趣味の自転車旅で瀬戸内海の美しさに魅せられ、夫婦と義母の3人で広島移住を決意。移住後1年は会社員から契約社員に切り替えてリモートワーク予定。

村松あゆみ 30代
フリーランスのCGデザイナー。仕事はリモートワークのため、移住後も現在のスタイルを継続する予定。

移住のきっかけは自転車旅

―― 本日はお2人の移住先でのキャリアについて、色々と伺いたいと思います。本題に入る前にまず、移住予定の広島県尾道市について教えてください。お2人の地元でもゆかりの地でもないこの土地に移住を決めたのはなぜでしょう?

佐藤
きっかけは、6年前に趣味の自転車でしまなみ海道のサイクリングロードを走ったことですね。広島から6つの島を経由して愛媛までつながっているんですが、島と島をつなぐ橋から見た瀬戸内海の景色が忘れられなくて、「いつかしまなみ海道の島のどれかに住みたい!」って思っていたんです。それで、はじめに決めたのが生口島。でも生口島ではうまく物件がみつからなくて。

村松
それならばと、『瀬戸内しまなみ海道』の本州側の出発地点になっている尾道市にしたんだよね。

―― 尾道はどんな街ですか?

佐藤
僕らが暮らす予定の場所は山の斜面にあって、再建築不可の古い民家や歴史ある神社仏閣、若い人が手がけたモダンなお店なんかがごちゃごちゃと共存してる面白い街ですね。そういうごちゃごちゃ感も含めて街としての魅力があるから、若い移住希望者も多いみたいです。

旧市街地の階段から見下ろした尾道市

坂や階段が多く、入り組んだ旧市街地

村松
今回私たちが決めた家は直前まで人が住んでいたからそこまで痛んでなくて、コンディションはよかったよね。リフォームOKなので、自分たちでちょこちょこ改修しながら住む予定なんです。

―― 古民家を改修しながら住むというのは、移住希望者のあこがれのひとつですよね。

佐藤
DIYはやったことないけど性格上多分ハマれると思うので、楽しみではあります。ただ、物件を仲介してくれた不動産屋さんには、「尾道に住んでる人たちはそんな物件は選ばないよ」って言われましたね(笑)やっぱり移住者ならではの選択みたいです。

コミュニティに入っていくパワーが必要

―― 移住に関して、不安に思っていることはありますか?

村松
仕事にしろ暮らしにしろ、自分からどんどんコミュニティに入っていく行動力は求められそう。私はもともとインドアな仕事だし、できるか不安ですね。

佐藤
それはあるね。家探しひとつでも、ネットでサクッと検索とかじゃない。まずは空き家バンクを管理しているNPO法人とコンタクトをとって、一度現地に足を運んで直接話してから初めて不動産サイトに掲載されていない物件を仲介してもらえるんです。

村松
物件自体は余っているんだけど、元の所有者の残置物があったりするから顔のわかる人にしか貸せないっていう。

―― 移住希望者がよくつまずく問題ですよね。

村松
それで、何度か足を運んでオーナーと顔見知りになってやっと家を見せてもらえたり。足を使ったコミュニケーションをしないと、物事が進まないというのは家探しの時点で学びましたね。

佐藤
ただ、自分から飛び込んでさえいけば、いい意味で世話を焼いてくれる人は多い印象ですね。引っ越してすぐのころ、近所の方や居酒屋の店主から「困ったことがあったら連絡して」と声をかけていただいたので、すぐに庭の手入れで使用する脚立や枝切ばさみを貸してもらいました(笑)

―― 同じ世代の移住者とはどんなふうにつながるのでしょうか?

佐藤
実を言うと、まだ若い人には会っていないんです。これは街を管理しているNPO法人の人に言われたんだけど、移住者同士のつながりもコミュニティに入っていかないとできないみたいで、住んでからが勝負ですかね。幸い僕らの趣味でもある飲み屋はたくさんあるので、どんどん開拓して若い人とも繋がりたいです。

生きがいと生業を両立させる生き方

―― 移住は5月上旬とのこと(取材時は4月)。今後お仕事はどうされる予定ですか?

佐藤
僕の方は、今年いっぱいは今の会社の契約を正社員から契約社員に切り替えてリモートで働く予定です。仕事はインフラエンジニアなので、とくに働く場所は問われないのがラッキーですね。今の会社との契約が切れたらそのままITフリーランスになろうと思っています。

エンジニアの仕事が軌道に乗ってきたら、マイクロ法人を立ち上げて自転車系のブログやYouTubeもやってみたいんですよね。ずっと仕事が忙しかったから、移住したらやりたかったことを思いっきりやろうかなと。

―― 面白そうですね。趣味を追求しつつ実益にもなりますし。事業としての目標があれば教えてください。

佐藤
ゆくゆくは尾道市や地元企業とタイアップしてみたいですね。やっぱりその土地に魅力を感じて行くので、その魅力を多くの人に発信して行くことは目的のひとつです。

―― 現時点では、移住後の仕事のために準備していることはありますか?

佐藤
エンジニアの仕事に関しては、契約が変わるだけで今までの仕事を引き継ぐ予定なのでそこまで準備することはないですね。

法人の申請方法は少しずつ調べています。あとは、メイン事業になるブログのサーバーを借りたり、YouTubeの勉強をしたり。その辺りは村松が動画のプロなので、いろいろ助けてもらいながらやっていくと思います。

村松
最初だけって約束ね(笑)でも、エンジニアの仕事をフリーランスに切り替えることで仕事の時間配分が自分でできるようになるから、やりたかったことにチャレンジするのはすごくいいと思う。これまですごく忙しそうだったし、これからは生活のための仕事だけじゃなく自分の生きがいも両立できるといいよね。

佐藤
楽しみだよね。『しまなみ海道』って、チャリ乗りにとっては聖地。実際に現地で暮らしている立場から発信することで差別化できるし、反響も得られると思う。

街に貢献できる仕事に出会いたい

―― 村松さんは、移住後のキャリアプランはどのように考えていますか?

村松
私はフリーランスのCGデザイナーなので、仕事の仕方は今までとそんなに変わらず、クライアントとのやりとりや作業は在宅になると思います。でもこの移住を新しいキャリアのきっかけにしたいとは思っていますね。

―― 詳しく教えてください。

村松
実は、尾道市の古い建物や景観を全国や世界にPRできるような作品を自主制作で作ってみたいと思っているんです。私の発信で尾道市の魅力を世界中の方に伝えて、ゆくゆくは地元企業さんのお仕事をしたり、地方創生のお役に立ってみたいんですよね。地元のみなさんに喜ばれる仕事につなげたい。

旧市街地から見下ろした尾道市

海・山にぐるりと囲まれた自然豊かな街並

今はその準備もかねて英会話を始めたり、海外の方とつながれるようにSNSにチャレンジしようかと思っているところです。『Instagram』のほか、クリエイター同士が作品を公開したり交流を持つことができる『Behance』にも登録してみたいですね。私、人見知りなので本当はSNS苦手なんですけどね(笑)

佐藤
どんどんやったほうがいいよ!英語ができてクリエイターとつながれたら、世界中のクリエイターと尾道市の仕事をつないだりすることもできそう。

村松
夫はすでにSNSで尾道の人とつながっているみたいですね。

佐藤
俺めっちゃフォローしてる。向こうで仕事をしていく上でも、現地の人とつながっておきたいなと思って。

クリエイターの感性をくすぐる街

―― お2人とも、移住者から見た“尾道市らしさ”をクリエイターとして発信したいと考えているんですね!実際、尾道市の移住者がそのような発信をしている例はあるのでしょうか?

佐藤
実際に知っている方がいるわけではないのですが、移住者が手がけたショップや街並みを見ても、クリエイターの方は多いのかなと思いますね。新旧ごちゃごちゃ入り乱れているカオスな感じが”サブカル感”というか、同じような感性の人を惹きつけるんじゃないかな。

―― 映画監督の大林宣彦氏、日本画家の平山郁夫も尾道市の出身ですね。多くの文豪のゆかりの地でもあるそうです。

村松
もともと、画家や映画監督を排出したりしている街なので、クリエイターとの親和性は高いみたいですね。

市も、「芸術とゆかりが深い街」としてアーティストを支援する動きがあります。1989年から開催された『瀬戸田ビエンナーレ』というアートプロジェクトでは、「島ごと美術館」と銘打って尾道市の一部である生口島に色々なアーティストのオブジェを設置したそうです。今でも島のあちこちにこのときのオブジェが展示されているので、地元の方にとってもアートは身近なものなのかもしれません。

―― お2人が尾道で活躍されるのを楽しみにしています!最後に、移住にあたって楽しみにしていることを教えてください。

佐藤
俺はやっぱりチャリかな。もともと島好きなので、瀬戸内海の島を色々回りたいですね。1日で移動できる範囲がこれまでとは全然違うと思う。そもそも西日本に住むこと自体初めてなので、広島だけでも行ったことがない場所がいっぱいあるし、島根や岡山…周辺にも魅力的な県があるのですごく楽しみですね。

村松
私はいま、楽しみな気持ちとうまく馴染めるのか?って不安が半々(笑)でも、家のリフォームをしながら暮らしていったりする中で、自分達だけじゃどうにもならないこともあるだろうから、地元の方や移住者の方と少しづつつながれたらいいな。

床板が浮いた古い民家の台所

自分達で改修予定の新居台所

佐藤
食べ物も楽しみです。いまはお好み焼きと尾道ラーメンが美味しいお店が気になってるんですよ。美味しいお店をどんどん開拓していきたいですね。

―― 移住後の生活もぜひまた取材させてください!本日はありがとうございました。