「張り子の可能性を広げられる作品」をデコ屋敷本家大黒屋さんとつくろう

こちらは11月30日に渋谷で行われる「郡山ナイト〜郡山の企業と一緒に事業をつくろう〜」の記事となります。イベント特設ページはこちら

皆さんは張り子というものをご存知でしょうか?
張り子とは、型に和紙などを貼り付けて成形する造形技法で、日本では伝統工芸品や郷土玩具などに使われています。

郡山市西田町にあるデコ屋敷本家大黒屋。約300年もの間、張り子という伝統技法が紡がれてきました。その張り子の新しい形にチャレンジしている21代目当主の橋本彰一さん。
今回、橋本さんには「郡山ナイト〜郡山の企業と一緒に事業をつくろう〜」へ企業側として参加していただきます。

イベントの開催に際して、当主の橋本彰一さんに張り子の可能性と、どのような新しいことに取り組みたいかをお聞きして来ました。

デコ屋敷本家大黒屋 21代目当主の橋本彰一さん

デコ屋敷本家大黒屋 21代目当主の橋本彰一さん

―― もともと張り子というのはどういった用途で生まれてきたのでしょうか?

もともとは家業でやっていて、農業をやりながら農閑期に張り子(はりこ)仕事をして続いてきた。

張り子っていうのは玩具やお面、ダルマなど幅広いんですよ。
お面は踊りの時に使う場面もあったでしょうし、ダルマは縁起物として昔病気がはやった時赤色というのはもともと病気除けの意味があると言うことで、厄除けの意味として使われていたようです。

ダルマなんかは日本中それぞれの特色があって、ここの地域では毎年一回りずつ良いことがありますようにと願って、昨年より一回り大きなダルマを神棚に飾るっていう習慣があったようなんですよね。

張り子で作成したダルマと福島のご当地キャラ「キビタン」と橋本さん

張り子で作成したダルマと福島のご当地キャラ「キビタン」と橋本さん

―― 今はそういった風習は残っていないのでしょうか?

これは自分も危機感を持っているところなんです。
住宅事情が昔と違って神棚が小さかったり、無くなったりすると、もともとの習慣がなくなってきちゃうんですよね。なので昔ほどダルマを買う人が少なくなってきているし、大きなものを必要とする人も少なくなってきています。そこを何とかしたいなと思っているんですよね。

「もっと小さなものがないの?」といったお客様の声があるので、小さな張り子を作っているところでもあるんですよね。小さなものを作るには、またちょっと別の技術が必要なんですよ。

なので、今まで小さな張り子を作るのにちょっとためらいがあって手を出さずにいたんです。けれども、そうも言っていられないなという事で、今ちょうど試作品を作っている段階です。

―― 小さなものと通常のものを作るときには具体的にどのような違いがありますか?

張り子というのは木型という型を作って、その上に和紙を貼っていくんですが、それが小さすぎると凹凸が表現しづらくなってくるのでディティールが強調しにくくなってしまうんですよね。

形だけ見ると何の形だかわからなくなってしまう。
それを一工夫して小さなものでもある程度ディテールが分かるようにしなくてはならないので、職人さんに試行錯誤してもらいながら作っているんです。

張り子は軽くて丈夫な素材だけど水には弱い

―― 張り子は素材としてはどういった特徴があるんですか?

紙なので軽いですね。よく紙ならあの青森のねぷたと同じなの?って聞かれるんです。
私は先輩方から「張って子ができるから張り子なんだよ」と教えられました。
型に和紙を張ってそれが子になる。一方、ねぷたは張るけれど骨組みがあってそこに和紙をはって形ができるんです。

基本的に張り子の場合は骨組みがなく紙だけで成り立っているものなんです。型に食材を「張って子ができる」のであれば食べられる張り子とかも出来ますよね。似たような感じだったら落雁(らくがん)とかね。落雁とかも型に食材を練っているという表現になるのかもしれない。

耐久性としては、意外と丈夫です。ただ水には弱いですけどね。
耐水性のあるのものを作って欲しいといった注文もあるので、水に弱いのを何とかしないといけない。でも紙コップって紙なのに水入れても砕けないですよね。だから何かしらの技術を入れれば出来なくはないのかなとも思っています。

張り子は素材が和紙というのも特色だと思っていて、日本特有の素材を使っているんです。和紙も今は需要がなくて伝統を守っていくのが大変なようで、私は和紙の需要を増やすのは唯一張り子なのではと考えてます。
ダルマとかほとんど和紙が素材なんですけど、色を塗っているため素材感が出ないんです。もっと素材感を残すような張り子を作っていきたい。

―― 和紙じゃなくても張り子はできるのでしょうか?

新聞紙でもできると思います。でも作りやすいのは和紙ですね。水にぬらして柔軟性を持たせて型にはっていくんですが、普通の紙だと水にぬらした時点で砕けちゃうんです。
和紙は水に濡らしただけでは砕けない、強く引っ張れば破けてまうんですけど、水にぬらして少しひっぱりながらでも型に綺麗にはれるという特性があります。

―― 新しいものを作るときに素材が変わってしまうことに対して、こだわりはありますか?

少し前まで張り子って、木型に和紙をはって作らないと張り子じゃないと思ってたんです。でも大きな張り子を作るのには木だと大変なんですよね。それだけ大きな木を手に入れるのも大変だし、加工するのも大変。
そこで木じゃない素材で型になりえるものを探したんです。そこで見つけたのがスタイロフォームという、建築で使われる断熱材です。
カッターでも容易に切れ、ホームセンターでも売っている素材なんですが、スタイロフォームで型代わりにすることができたんですよね。その時あまり素材もこだわっていると、張り子の可能性が限られちゃうなと実感しました。

橋本さん

一緒に作品を作ってきた、名立たる人たち

ーー 今まで、一緒に新しい作品などを作ったことなどはありますか?

以前アートインレジデンスのような形でうちに来た石井君という子とは、今でも張り子でアクセサリー作れないかっていう事で試行錯誤しています。張り子はひと手間ふた手間加えれば何でも作れるんじゃないかという技術的な可能性を感じているので、新しい視点や感性を入れてもっと面白いものをつくりたいと思っています。

―― 他にも取り組んだことなどはありますか?

今までコラボレーションした業界は建築、隈研吾さんとも作品作ってたりもするし、ファッション業界だとコシノジュンコさんだとか、中田英寿さんとかですね。

コシノジュンコさんとは、福島県の取り組みの中で、県内の伝統工芸品とコシノジュンコさんがコラボレーションして世界に発信できないかという中で携わりました。
陶芸、漆、染色など色々な分野がコラボレーションしてやったんですけれど、うちの張り子が好評だったようです。

コシノジュンコさんとコラボした張り子作品

コシノジュンコさんとコラボした張り子作品

それをコシノジュンコさんがフランス・パリなどのファッションショーに一緒に持っていったら一番売れ行きが良かったという事がありました。
現在もファッションに根差した張り子が作れませんかということで色々アイディアが来ていて試作品を作っています。

―― 中田英寿さんとはどういった形で取り組まれたのでしょうか?

これは私の中ではすごくターニングポイント的な年、東日本大震災があった2011年の6月。中田英寿さんのプロジェクトのほうからメールが一通届いたのがきっかけですね。

その話が来る前に中田英寿さんが引退して日本のモノづくりを世界に発信することを始めたっていうのをニュースで見たんです。「もし自分も関われたら何か面白いものが作れるかなぁ」なんて思っていて、しばらくしたら本当に話が来た。その時に作ったのがシロクマの等身大の張り子。

実物は中田さん側が所持されているため、橋本さんが頭部だけ再現したシロクマの張り子

実物は中田さん側が所持されているため、橋本さんが頭部だけ再現したシロクマの張り子

毛並みも和紙で表現して、それも話題になりました。その中田英寿さんとのプロジェクトは異業種とのコラボレーションだったんです。その時もチームリーダーがA BATHING APEのNIGOさんとインテリアデザイナーの片山正通さん、そして和紙職人として私が入りました。その時、他のチームには隈研吾さんもいました。

そういったご縁のあと、2012年に隈研吾さんがあかべこをデザインした起き上がりこぼしのペンを作れないかと、あかべこ屋さんに相談されたようなんですがそこでは難しく、橋本さんだったら作れそうだってことで私のところに「立ち上がるペン」という、起き上がり小法師のペンの話が来たんですよね。

先ほども言ったように手作りの張り子の技術は結構いろんな可能性を秘めていると感じていたので、うちはどんなものでも作ってやろうって気持ちで取り組みました。
手作りの技術でひと手間ふた手間加えれば何でも作れるんじゃないかという可能性を感じていたので、今まである張り子にいろんな要素を入れられないかなと考えています。
たとえば、音が鳴る張り子とか動き出す張り子とか、使える張り子とかあと、食べられる張り子とか、そんな要素をなにか作れないかなと。

そう思っていた中に隈研吾さんの立ち上がるペンという張り子は動くし使えるしってことで、絶対形にしてやろうと思いました。

2012年にIMF(国際金融基金)の会議が東京で行われるとうことで、海外から来たお客さん3000人に日本のモノをお土産として持たすということで、その立ち上がるペンは最終選考まで残ったんですよね。最終選考で落ちちゃったんですけど、せっかくなので作って今でもうちでも販売しているんですよ。そういうところで一つ隈研吾さんとコラボレーションして作ったものがありますね。

でも手作りなので、急きょ3000個用意してくれって言われると寝る暇なかったでしょうね。最終選考まで行って、落ちてくれて正直ホッとしてるところもあったり(笑)
やっぱり手作りで時間がかかる、数を多く作れないっていうのが大変なところでもありますね。

橋本さん

新しい張り子の形と張り子を知ってもらうことが課題

―― 今回の取り組みは新しいものを作るというのがテーマの中にも含まれているんですが、橋本さんが感じている課題とかはありますか?

張り子ってまずわからないですよね。
私とかは作っている人間なのでわかるし生活にありふれているんですけど、張り子って何?って感じる人多いと思うんですよね。
まず若い人中心に存在を知ってもらいたい。

ダルマさんとかみると「これ張り子っていうんだ」っていうのがわかると思うんですよね。
わかってもらえると面白いものなんだって、興味を持ってくれる人が出てきて、それが張り子を買ってもらうきっかけになるのかなと思うんですよね。

まずその張り子を知ってもらうきっかけ作りが欲しいなと。
そのためには宣伝、ネットとか、いろんな場に出て張り子をPRするのが必要だと思うし、新しい画期的な張り子、話題になるような張り子を作るというのも大事だと思う。
やり方は色々あると思うんですけど、まずは張り子っていうものを知ってもらうのが大事なのかなとは思っています。

ゆくゆくは、福島県って張り子の特産地だっていうのを広めたいなというのを思っています。福島県民自体も「福島県って何もないよね」「何も一番ってないんだよね」と言うんです。
けれども、質的にも量的にも福島県自体張り子に関しては他の県には負けないくらい幅広くあると思うんですよね。

うちで断ったらたぶん他で作れないという位、技術的な面では自信があるので。だから私は張り子で福島県を元気にしたいと思っています。張り子っていう存在を知っていただいてそのうえ福島県もPRできたらなって思うんですよね。

―― 技術的に今まで一番複雑だったものってなんですか?

先程も話した中田英寿さんとのコラボレーションで作ったシロクマの等身大の張り子ですね。
その話が来るまでは、1mちょっとくらいのダルマ以上のものを作ったことはないけれど経験則でもっと大きなものも作れると思っていました。
等身大のシロクマ作ってくださいと言われた時は「全然作れます、何ならその2倍3倍大きなものを作りましょうか?」って言ったくらいなんです。
ただひとつだけ、シロクマの毛並みを和紙で表現できませんかって言われた時は自分も出来るかな?って不安でした。
結果的にうまくいっているんですが、そのあと困ったなというのはないですね。今のところは複雑な注文がこないのか、何とかなってますね。

―― 今回、参加者と新しいものを作るという目標があるのですが、橋本さんがこんなことができたらなと現在思っていることはありますか?

染色する技術があったらいいなと思っています。先程も話したように私は和紙の素材感を残したいと思っているので、和紙に色を塗れるのであれば、それを模様に切って貼ってそのまま仕上げたいなと。

あと型ですね、型を3Dプリンターで作りたい。
張り子の型ってタイプが雄型と雌型の二つに分かれるんです。うちの場合は雄型で出っ張っている上に和紙を張り、その後に型を抜いて張り子ができる。それが雄型なんです。
逆に雌型は凹んでいて内側に和紙を張ってできる。雌型だとそこに食材を張るというふうな可能性が広がるなと。

通常サイズの雄の木型。木型だけでもかわいい。

通常サイズの雄の木型。木型だけでもかわいい。

今度できれば雌型でちょっとチャレンジしてみたいなっていうのもあるんですよね。雄型は自分で作れるので、雌型もやってみたら出来るのかもしれない。

安直かもしれませんが、ひとつのデータを用意すれば雄型も雌型も3Dプリンターで、すぐにできるんではないかとも思っています。だから3Dプリンターを活用した型作りとかもやってみたいですね。

実は3Dプリンターをデアゴスティーニで定期購読して作ってみたんです。作ってわかったんですけど、問題は3Dプリンターじゃなくて、それを活用するための3Dデータを作るのが本当に大変。
興味があるのでやってみようかなとも思うんだけど、時間がないし、自分で作るのが大変なので、そういった技術者がいたら相談に乗ってもらいたいですね。

伝統は守るものじゃなく、作っていくもの

デコ屋敷本家大黒屋は300年の伝統があるんです。
もっと古いかもしれませんが、はっきりわかっている時点から300年。

伝統を守るだけじゃなくいろんなことにチャレンジしながら伝統を作っていかないといけない。自分は正確ではないけれども21代目なんです。

多分今まであった「伝統」と言われるものも時代の流れで結構発展して今に来ていると思うんですよね。だから私も「21代目はこんなことやったよ」って次の世代に受け継いでいければいいなと思っています。

橋本さん

守るだけじゃなく、伝統を作っていきたい。

それに危機感もあります。先ほどのダルマの話じゃないですけども、年末年始に買うものなんだよ、素晴らしいものなんだよと言っても、家に神棚がなければ興味持たないだろうし買おうとも思わないでしょうから。

今の生活にあうということも考え、変化をしながら、伝統は作っていくべきだと思っています。

2018年11月30日に渋谷で開催される、郡山ナイト〜郡山の企業と一緒に事業をつくろう〜にて新しい事業やプロダクトの形をつくるイベントを開催します。
デコ屋敷本家大黒屋の橋本さんも参加されるので、ご興味のある方はお気軽に参加ください。
イベント特設ページはこちら