「日常の利便性を上げる仕組み」を郡山観光交通さんとつくろう

こちらは11月30日に渋谷で行われる「郡山ナイト〜郡山の企業と一緒に事業をつくろう〜」の記事となります。イベント特設ページはこちら

タクシーから始まり、介護や旅行など多方面に事業を展開させている郡山観光交通株式会社。2018年10月には「定額タクシー」の社会実験として国土交通省に採択されました。
同社を経営する山口松之進(やまぐちしょうのしん)社長に「郡山ナイト〜郡山の企業と一緒に事業をつくろう〜」に企業として参加していただきます。

山口さんは地域、またそこに住む人々の利便性を高めるような取り組みをやりたいとのこと。その思いや、どんな人と取り組みたいのかなどをお聞きしてきました。

郡山観光交通株式会社 代表取締役 山口松之進さん

郡山観光交通株式会社 代表取締役 山口松之進さん

うちのグループは昭和30年に祖父が創業して、昭和42年に父が株式会社化してそこから本格的に発展していくっていう形なんです。

現在はタクシーなどを擁したグループが1つ、トラックによる運送が1つ、コンビニエンスストアの運営で、交通・運送・販売の3つの大きな柱があるという構成になっています。

私の代でバブルがはじけて縮小していく時代のなかで、何とか生き残っていこうと模索しました。その中で、バスだとバス停まで行かなくちゃいけないけど、タクシーだと玄関に来てくれる。
そういう乗り物を使って何ができるんだろうという時に、ドライバーがヘルパーの資格を取り、家の中まで入っていくことによって、新たな関係性が作れるのではないかと介護タクシーが生まれました。

またセブンイレブンさんの配送センターをやらせていただく関係でトラック事業を始め、その縁の中でセブンイレブンの店舗もやっています。
それらの事業は車ありきなので、補完する意味で車両整備工場もあります。

タクシーというのが本業ですが、地域の人たちの利便性を如何に補助するかということを大事にしていて、介護タクシーや便利屋さん、コンビニエンスストアなどの事業を行っています。

また、地元にも良い所があるのに地元の人たちが気付いていないという問題も感じていました。こんなに良い所があるんだと知ってもらうためにFood Campという、青空レストラン事業も行っています。

ーー 旅行事業もやられているとお聞きしています。そちらはどういったきっかけで始められたのでしょうか?

それは大学の時に自然気胸という病気をして3ヶ月くらい入院していたのがきっかけで。
ある晩に大部屋から個室に移っていく人がいたんです。羨ましいな、なんて思っていたら、夜すすり泣く声が聞こえてきた。
お金があるから個室に移ったのではなく、死ぬ間際だから家族を看取るために、個室に移されたわけですよね。

個室に移っていいな、なんて思ったことを凄く恥ずかしく思ったし、明日死ぬかもしれないという事を間近で感じたことによって、今まで生きてきてやりたいことやってこれたのかな?と考えると、全然やれていない。

「何かしたいと思った時にしたいことができる。」
我々はタクシーを使ってそれを達成させてあげたい。そこで生まれたのが自宅までの送迎つきの旅行です。

―― タクシーがあって介護、介護があって旅行、旅行があってフードキャンプ。
隣の畑を耕していくというか、自分たちのリソースを使って新しいことをやっていくことってやはり重要ですか?

そうですね。やっぱりゼロから始めるって大変だということと、普段の気づきから新しいものって生まれるんだと思っています。

その気づきっていうのは、自分の心がどれだけ動いてるかっていう事だと思うんです。

病気をした経験があるから、外に出られない人たちを自分が見て感じたから、楽しみのための外出をさせてあげたい。

そう考えたときに実現できるリソースがうちにあった訳です。タクシーという道具があった。そこで自分がやる意味があるんじゃないかなと。なので、旅行業を取って始めました。

ただやるからには道楽ではダメで、利益が残らないとやっぱり続かない。
社員さんにとっても地域の人にとっても喜ばれて結果利益が残るという仕組みにしなければいけない。

介護タクシーもやっと形になったなと思ったのには10年かかったし、旅行も平成20年から始まってようやくここ2、3年。やっと形になってきたなぁと思ったから次のステップに進んできたというところです。

何事も、諦めなくてもいい余裕を持って取り組むってことが大事。
余裕がなくて始めるから、1年2年で悪くなるとすぐに辞めなきゃいけなくなる。

そういう意味ではうちはやっぱりタクシーがベース。タクシーの会社だというのは何処までも変わらない。タクシーがあるからできる、タクシーがあるからやっているんです。

日用品ではなくなったタクシー

もともとタクシーというのは、日用品だったんです。
昭和40年代とかは車が家庭にない時代、1台あっても旦那さんが仕事に出ていくと家に車がない。そうすると奥さんは、買い物に行くのにタクシーを使っていた。それは別に贅沢なことではなくて普通のことだったんですね。

それがマイカーの時代つまり、一家に1台からひとり1台の時代になりました。
タクシーが使われなくなる、使われなくなるから我らが国に値上げを申請する、値上げするからまた使われなくなる、また値上げするそういう悪循環で今は特別な時にしか乗らない。タクシー乗っているとなんか贅沢しているみたいな風に思ってしまうし、言われてしまう。そんな乗り物に変わってしまったと。

それを私は、日用品に変えたい。

山口さん

―― 今と昔では、タクシーと家庭との距離というのが広がりましたか?

そうですね。特に家庭と企業。
タクシーが使われないという事は、企業との距離が遠ざかっているんだと思うんです。企業の一部がタクシーでありドライバーさん、当然そこで使われる回数が減れば、日常会話が少なくなる。

「うちの息子がこの間テストで悪い成績とってきて」とか「うちのお婆ちゃん入院しちゃったんだよ」とかそういう情報が入ってくるわけじゃないですか。

自宅がどこという情報だけでなくて、家の中に入らなくても会話で家庭の中の状況がわかっていたわけですよ。

別にうちが特別じゃなくて、それが普通だったんです。
でも今は隣のアパートにだれが住んでいるのかもわからない。個人情報保護法とかでハードルの高い社会になりつつあるから、地域の人も変な権利意識が強すぎて、そういう意味では社会が変わっているなと強く感じます。

企業が、うちの会社がちょっと遠ざかってしまったかなと。そこが私が小さいころから肌で感じてきた中で一番悲しいというか、まずい方向に行っているのではと思っています。

これは大きな社会の流れからするとしょうがないことなのかもしれないけれど、人が生きるという事に関して、必要だったことが失われているっていう事にもなりかねない。

子どもが殺されちゃったって事件があると、子供達に知らない人には挨拶するなという教育をするわけでしょ。でも昔は知ってるか知らないか関係なく誰にでも挨拶をしろって教育したわけ。
知らない人の中には、当然不審者はいるかもしれないけど、そうじゃない人のほうが多分多い筈なんだよね。でもそれがたった一人のために違う方向に社会を向かわせているのではないかなと。

それを食い止める何かができるのであれば、なくてはならない事業になる。そうすれば、いつまでも存在し続けられる企業としての生命力が強くなる。

そのためにどういった事業をやっているかは、時代によって変わってくるとは思うんです。でも根っこにあるのはタクシーだからこそ、その地域とのつながりという部分は大事にしたい。

やりたいこと、課題はたくさんあるけど、手が足りない。

ーー 山口社長が現在やりたいけれど、手をつけられていないことってありますか?

旅行を日常にしたい。
1年に一回とか、1ヶ月に一回とか、今朝から夜とか2泊3日とかになるとやっぱり何か月も前から準備していくものだけれども、我々が介護とかやっていると、隣の公園に行くのも旅行なんだよね。体が動かない人からすると、玄関から一歩出て隣の公園に行くこと自体ハードルがすごく高い行為。そういう意味では隣に行くことも旅行。公園に行くことも旅行。

一歩外に出ることが旅行だとするならば、旅行は日常だと思うんです。
日常になるような、外出の支援を我々から提案してあげる必要がある。買い物に行くというのは自分の意志で行くわけだけれど、家から出られない人たちは我々がサポートしてあげるべきだと思うんです。

今日はあそこで特売があるから行きませんか、冷やし中華が始まったから食べに行こうよとか。我々から連れ出してあげることによってそれ自体が旅であり、それを日常的な存在にしてあげる。
それが私がやりたい旅行を日常にするということです。

山口さん

その他には、子育てですね。
本当は保育所を作りたいんだけど、資格者がいないし見つからないので、事務所として使えるスペースと子供が遊べるスペースを併設したような場所を作れないかなとか。

ただ単に子育てが問題だから子育て事業がやりたいとかではなくて、なぜ子育てをやりたいのかっていう根っこの部分は「生きがいの循環」というものが根っこにあります。

生きがいの循環というのは、お客さんや地域の人たちにサービスを利用してもらうことによって自分らしく生きていると実感してもらえること、そして我々、サービスを提供する側がやりがいを感じてもっと貢献しようと思いたくなるというサイクルです。

新しくビジネスをやりたいって人がいれば、0を1にするってパワーがもの凄く必要。
そこには損得を考えている余裕はないんです。損得考えているようでは、多分成功しないんだよね。
まずはやる、やってから考えるくらいの話じゃないと。
私の中ではやりたいことがいっぱいあって、人材がいないからできないだけで、いつでも始めたい。

10年前くらいから色々なことを考えていて、始めているものもあればまだ始められていないものもある。あとから違う形で始まっちゃったのもある。
私が全部これをやることは不可能だし、それはやっぱり人の出会いだと思ってます。ただなんでやりたいのかっていう想いは必要ですよね。

0からじゃなく10から始めるためにリソースを使ってほしい

―― 使ってもらいたいのは、一番タクシーのリソースという部分が大きいですか?

タクシーの他にも、バスもあれば旅行の企画力というものであったり、地元とのネットワークという事だったり、そういったものも含めて使ってほしいなと思っています。
地域との人間関係や信頼、社員がベースにあってうちの会社というのは成り立っている。

私一人でやっぱり会社というのはできないし、まだまだやりたいことがいっぱいあるんだけれども、それは一人じゃできない。自分で何か始めたいと思った人がさっき言ったみたいにゼロから始めるってやっぱり大変な訳ですよね。

であれば、ゼロからじゃなくて、うちが持ってるリソースで10からはじめられる。
私がやりたいことがあって、その人がやりたいこととマッチしているのならその方が代わりにやってくれればいいと思っています。

結果として、私はやりたいことができるから嬉しいし、その人はやりたいことがゼロからじゃなくて10から始められる。

そういう関係性は、うちの会社であれネットワークであれ、存分に使ってほしい。
できればうちの社員さんにも、リソースはどんどん使ってほしいし、外部の人にも使ってほしい。
ただ、そのスタートラインは何処に想いがあるのか、お互い重なるかどうかってところだと思っています。

―― 他社との協業やジョイントベンチャーなどの取り組みを今までやられたことはありますか?

ジョイントベンチャーというのかはわからないけど、たとえばFood Campを考えた時には農家さんとタイアップしないとできないので、当然シェフも外から参加してもらって一緒になってやってます。

農家さんとは想いを共有していて、コストや損得ではなく、一緒に終われば喜ぶし反省するっていう意味では協業なのかな。
あとは*開成マルシェも*Nitcho(日本調理技術専門学校)さんが主体となってやっていて、うちが店をやっています。常に連携を図って、お互いを高めるためにどうするべきかってことを一緒に考えています。

地元の野菜などを販売している開成マルシェ

―― 今後決まっている取り組みなどはありますか?

マイタクシーっていう定額乗り放題タクシーというのがあるんだけど、これが今年10月1日から国の社会実験に登録されました。
私の人生をかけてやりたかったことが今ようやくやれる環境になって、このために今までのすべてはあったと言っても過言ではないくらい、これがさっき言ったタクシーを日用品にするっていう事へのチャレンジなんです。

―― これは今までやられてたことを、総括するようなサービスでしょうか?

まとめたというか、より生かすためのインフラをつくるっていうことですね。
簡単に言うと、タクシーをシェアリングするということ。
高齢者で運転している人たちがいっぱいいるでしょ?その人たちに車を捨ててもらって、タクシーをシェアリングしてもらう。月定額で日常外出を全部タクシーで、利用してもらう。その社会実験を今やろうとしています。

行きたいところに行くための足を作る、それがある事によって数多くのアプローチができるようにしてあげる。さっき言った、買い物に行ったり外食するとかっていう事をより身近にするってことができればと思っています。

2018年11月30日に渋谷で開催される、郡山ナイト〜郡山の企業と一緒に事業をつくろう〜にて新しい事業やプロダクトの形をつくるイベントを開催します。
郡山観光交通の山口さんも参加されます。ご興味のある方はお気軽に参加ください。
イベント特設ページはこちら