農産物の流通も担う農業専門プロデュースカンパニー株式会社コンセプトビレッジ

農業分野のプロデュースカンパニー、株式会社コンセプトビレッジを経営する馬場大治さん（30歳）は、震災をきっかけに地元郡山市にUターンして起業した一人。
「地方には起業家の数が少ないから、何か新しいことをやると目立ちやすい。メディアにも取材してもらいやすいし、地域での第一人者になれる。」と地方で起業することのメリットを語ります。

自分が情熱を傾けて、覚悟を決められることは何か

農業をしていた祖父母の手伝いで、4歳のころから朝市で野菜を売っていた馬場さんにとって、「働く」イコール「自分で稼ぐ」ことであり、いずれは起業したいと考えていたそうです。上智大学文学部を卒業後、東京の広告代理店にいったんは就職。社会人2年目の時に東日本大震災が起こり、生まれ育った郡山市に戻ってきました。最初は父親が経営する学習塾を継ぐことを考えましたが、「本当に自分が情熱を傾けて、覚悟を決められるビジネスは何か」と問い直し、幼いころから親しんできた農業の分野での起業を決意しました。

震災と同時に起こった東京電力福島第一原子力発電所の事故。当時の福島県の農業は「風評被害」という大きな難題と直面しており、馬場さんの起業は、風評被害と戦う生産者さんに寄り添うことから始まりました。
「首都圏では福島県の農産物がまったく売れない状況でした。でも、あのころの福島県の農業が抱えていた課題は世界で初めてのこと。こんな経験はなかなかできない」と前向きにとらえ、首都圏の大企業と福島県をつなぐことに注力したそうです。福島県産食材を使った駅弁をプロデュースし、首都圏の主要な駅や羽田空港で2万個以上を売り上げました。

生産者と伴走して農業の魅力を伝える

それと同時に、地元の生産者の声を聴いたり、畑に出向いたり、農家さんとの信頼関係の構築にも奔走。「起業から４か月目で、ようやく上がった売上が4万円。農家さんの六次化商品のジャムのパッケージデザインでした」と苦笑いする馬場さん。そんな馬場さんも今では、「農業といえば、コンセプトビレッジの馬場くん」と言われるまでに。2015年3月11日には、県内約30の農家と手を組んで、農業の魅力を伝えるプロジェクト「クールアグリ」を設立し、 農業のかっこよさを日本中に発信し、次世代の新規就農者や雇用就農者を増やす取り組みにも力を入れています。

馬場さんは、「農家さんの情報発信力の弱さや、デザイン性がないなど、そもそも震災前から、農業分野に「売る」ための工夫がされていなかった」ことに、自分のビジネスのポテンシャルを感じています。「生産者の想いやビジョンを言語化し、実現するために必要なことを伴走してカタチにする会社」を企業理念に掲げ、福島県内１０００農家のうち、年商１０００万円以上の大規模農家をメーンのクライアントとして、ブランド設計やクリエイティブデザイン、プロジェクトデザインなどを手掛けています。

デザインやブランディングだけではない想いを繋ぐ「流通」

そして、もう一つの柱となっているのが、「地域商社」事業。県内の提携農家から直接商品を仕入れ、郡山市内の飲食店やホテルに届ける中規模流通の役割も担っています。単に新鮮な商品を届けるだけではなく、生産者の想いと飲食店の想いをマッチングさせることで「農業」と「食」の新しい可能性を生み出しているのが馬場さんのサービスの特徴です。
20代、30代の三人の若手社員とともに、日々広い福島県内を駆け巡っている馬場さん。間もなく女性社員が一人、産休に入ってしまうとのことで、仲間を絶賛募集中だとか。

馬場さんが求めている人材は、「郡山を客観的に見られる人で、クリエイティブディレクションができる人」。広い福島県内で、各地の農業と流通を掛け合わせ、地域のリソースを組み合わせる「地域の事業プロデューサー」として活躍できる人を増やしたいというビジョンを持っています。

「地域課題解決型のスモールスタートアップやソーシャルビジネスをやりたい人には、地方での起業をお勧めしたい」と馬場さん。「働き方に対する意識が変わってきているなか、ベーシックインカムが確保できれば地域のためにできることを活動したいと考える若い人が増えてきた。郡山市には、そういう若者を支援してくれる人たちがいて、応援されやすい土壌があると思う」と話します。